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大野病院事件に関する疾患の説明と、医療行為の妥当性についての私たちの見解Ver. 3.3

 はじめに、この度の手術でお亡くなりになられた女性患者さん、そしてご遺族の皆様方に心より哀悼の意を捧げます。我が子を抱くことなく、この世を去ったご本人と残されたお子さま、ご主人さまの悲しみと無念さはいかばかりか、余人のはかりえないものであります。医療に従事する者として心からの哀悼の念を抱くものです。

 今回の事件について公開されている情報をもとに考えますと、業務上過失致死罪に問われている担当医の女性患者さんに対する診療内容は、現在の産科医療水準に則ったものであり、何ら過失はなかったものと判断しております。その医学的な理由は以下のものです。


「疾患について」

 本件は前置胎盤にさらに癒着胎盤という疾患を合併したために、不幸にして亡くなられた事例です。前置胎盤とは、赤ちゃんに栄養を与える子宮内の胎盤という臓器が子宮の出口を塞いでいる状態で、帝王切開以外にお産の方法はあり得ません。癒着胎盤とは、この胎盤が子宮の壁に強固に癒着しているという状態です。これは1万件の分娩に2〜3回発生するかどうかというごく稀な疾患で、産科医が一生のうちに1例か2例遭遇するに過ぎない、あるいは遭遇しないこともあり得るような疾患といえます。そして、癒着胎盤は、出産の時に胎盤がはがれず子宮から大出血が続く重篤な疾患です。


「診断の困難さについて」

 癒着胎盤を分娩前に診断することは極めて困難です。通常、胎盤は胎児の分娩後、自然に剥離するもの(いわゆる後産)です。癒着胎盤は、分娩後に胎盤が自然に剥がれてこないときに、胎盤を物理的に剥離する過程で初めてわかるものであり、その癒着の程度を含め、正確な診断名は、その後の病理学的検査によって初めて判明します。

 実際、本件では、赤ちゃんを取り出した後に、引き続き胎盤を取り出す処置をするまで、癒着胎盤であることは認識されておりません。

 本件のように前置胎盤に癒着胎盤が合併した状態は事前の診断は非常に困難で、特にこの件のように胎盤が子宮の後ろの壁に癒着している場合、予測することは現在の医療水準でも不可能とされています。担当医は前置胎盤の手術については経験が充分であったため、当該病院で帝王切開術をおこなったこと自体は責められるものではありません。


「手術、治療の困難さについて」

 「癒着胎盤と判明した時点ですぐ子宮全摘に切り替えるべきだった。」と検察側は主張していますが、どの時点で子宮全摘するかは、その時の状況によって判断すべきもので、すぐに子宮全摘に切り替えなければならないという医学的な根拠はありません。

 この件は、輸血の為の血液を十分に用意でき、多数の熟練の医師がいる総合周産期医療施設においても救命が困難であったことが推定され、救命できなかったことをもって刑事責任を問われるとすれば、産科臨床医に対して不可能を強いるものであり、不当です。


「最後に」

 現在のわが国の周産期医療のレベルは世界最高の水準にあることは国際的にも認められています。

 しかし、残念ながら不幸にしてお産の時に亡くなられる産婦は、未だに毎年、数十人おられることも事実です。

 この女性患者さんも、今の医学で果たして救命が出来たかどうかというほど難しいご病気でした。

 このことから、私たちは担当医についてこの女性患者さんを救命できなかったことをもって犯罪者として刑事責任を問われるべきものではないと考えています。

 私共は、医療に従事する者として、本件のような不幸な結果が少しでも少なくなることを信じ、誠実な診療・研究を行い、日々研鑽に努めています。また、本件の様に、正当な業務に対し、結果が伴わなかったことを理由に刑事処分を科すことに反対します。


平成20年8月17日 全国医師連盟

参考文献

「ある産婦人科医のひとりごと」HPより

 2006年2月19日 癒着胎盤で母体死亡となった事例

 2006年3月8日 母体死亡となった根本的な原因は?(私見)

 福島県立大野病院の医師逮捕事件について(同ブログ内リンク集)