本日、福島地方裁判所は、福島県立大野病院で2004年12月17日、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死および医師法21条違反(異状死届出義務違反)の罪で逮捕・起訴された加藤克彦医師に対して、業務上過失致死と医師法21条違反ともに無罪を宣告されました。
我が子を抱くことなく、この世を去ったご本人と残されたご遺族の悲しみと無念さはいかばかりか、余人のはかりえないものであります。亡くなられた女性、そしてご遺族の皆様方に対し、医療に従事するものとして心より哀悼の意を捧げます。
また同時に、2006年2月18日の逮捕以降の加藤克彦医師の心中(しんちゅう)を察するには余りありますが、支援する我々としては、この無罪判決が加藤克彦医師の名誉回復となることと信じております。
業務上過失致死罪における我々の見解は「大野病院事件に関する疾患の説明と、医療行為の妥当性についての私たちの見解」として発表しておりますが、無罪判決は至極当然のことと考えます。
今回の業務上過失致死罪における以下の争点
(1)癒着した胎盤の部位と程度 (2)出血の部位・程度とその予見性
(3)死亡したこととの因果関係
(4)胎盤を剥離したこと、クーパー(手術用はさみ)を用いたことの妥当性
(5)子宮摘出への移行義務
については、判決文の詳細な検討が必要ですが、本事例は前置胎盤と術中に判明した予測困難な癒着胎盤が重なり、加藤克彦医師の可能な限りの治療にもかかわらず、疾患の特殊性などの複合的要因により、不幸な結果がもたらされた不可抗力的事故であります。このような不可抗力的事故で、業務上過失致死として加藤克彦医師が起訴されたこと、さらに、在宅事件でなく逮捕勾留までなされたことは、誠に遺憾であり、今後の法的整備の必要性を我々は強く訴えるものであります。
本事例の医師法第21条違反(異状死届出義務違反)無罪については、平成16年の最高裁判所判決(東京都立広尾病院で起きた誤投薬を警察に届け出なかったことについて、医師法21条に基づく警察届出を医師に義務づけても許容される)との整合性の検討が必要ですが、明治7年に発布された医制をほぼそのまま踏襲した医師法
21 条が、現代医療を規定するルールとして機能していないことは明らかであります。この医師法第21条を根拠に過失の有無にかかわらず届出義務違反の罪に問われることは,その妥当性に問題があるといわざるを得ません。医療における臨床経過の解明と再発抑制を目的とした、届け出制度と解明機関を整備する必要があると考えます。
我々は、加藤克彦医師の無罪判決が下された今、福島地方検察庁が控訴手続きを断念されることを切に希望するところであります。さらに、医療過誤の判定に関わらず、予期せぬ不幸な結果が生じた場合の、患者家族への社会的慰撫と救済が可能となる患者家族救済制度の設立を求めるものです。
平成20年8月20日 全国医師連盟執行部 |