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持続可能な医療体制を実現するための全国医師連盟の五つの緊急提言

各政党にこの緊急提言、及び公開質問状を送付しました。
→ 回答速報
緊急提言

国際的に評価の高い日本の医療は、崩壊のまっただ中にあります。そして、医療崩壊は、日本社会に様々な悪影響を及ぼします。医療現場が疲弊す る一方で、医療制度の矛盾は、長年放置されてきました。日本の医療は直ちに修復されなければなりません。全国医師連盟は、ここに持続可能な医療 体制を実現するための緊急提言を発表します。

1.医療費を先進国並みに増額し、医療を大幅な雇用創出の場にすべきです。保険診療の診療報酬は、医療関連職の技術を含め人的資源にかかる 費用を重視して、緻密なコストの積み上げで決定することと、その過程を透明化することが大切です。

2.医療の需要は、現場の対応能力の限界をはるかに超えています。現場の医師がこれ以上疲弊しないために、国はこの問題を直視し、急性期医療 機関への受診を適正化するなど、医療の需要を制限する緊急避難的な施策を真剣に検討するべきです。

3.医療従事者が過剰労働で医療を支えている現状では、医療の安全は守られません。国と医療機関の開設者は、病床あたりの勤務医師数を大幅に 増員するよう努力し、労働環境の適法化に真剣に取り組む必要があります。

4.医師の計画配置は、過酷な労働環境が放置されたままでは不可能です。このような医療の現場に医師を強制的に配置することは、医師を消耗させ 、結果的に医師の診療能力の低下を、ひいては医療供給の減少をまねきます。

5.医療の場で不幸な事態が起こったとき、捜査機関の介入に先立ち、刑事手続に付すことの相当性を検討する調査委員会の設置が必要です。また 、医療事故補償基金を創設し、患者(家族)救済を図る必要があります。

全国医師連盟の緊急提言は、逼迫した医療現場からの切実な訴えです。医療崩壊は、旧来の方法では解決できず、緊急に抜本的な対策をとらなけ ればなりません。



解説

医療の進歩とともに、日本人の平均寿命は、戦後60年で30年も伸びました。妊産婦死亡率は1950年当時より40倍改善し、周産期死亡率も14倍改善し 、世界トップレベルに達しました。一方、日本の医療は、健康指標での国際比較で世界最高と評価されていますが、医療を支える医療費や医療従事 者数は、先進国中最低レベルです。医療現場の負担はすでに限界を超え、医療行政を転換する必要があります。
この15年間の医療環境の変化を見ると、急病者の救急搬送は2倍に増え、医療事故報道は30倍に増え、医療訴訟は2倍に増えています。医療機関、 診療所の経営悪化が報告され、病院勤務医の勤労条件は極めて劣悪なものになっています。病院勤務医の勤務条件が、平均でも過労死認定基準を 超えているという深刻な報告が出ています。
近年、医療において、コスト(医療費)、アクセス(受診し易さ)、クオリティー(医療の質)の三者は並び立たないとされています。際限ない医療需要の増 加に対し、医療の供給量が不足していること(医療の需要と供給の不均衡)が、医療崩壊の主要因となっています。日本の医療のコスト、アクセス、クオ リティーを今後も現状のまま維持することは不可能であり、アクセスの見直しを避けるべきではありません。
現在の医療費と医療従事者数では、増大する医療需要に対応することは困難です。医療システムが瓦解し始めている状況(医療崩壊)を真剣に直視 すべきです。医療の持続性を確保し、健康保険制度を維持するためには、優先性の低い医療需要は抑制し、医療供給すなわち医療資源(人員と経 費)を増加しなければなりません。これが出来なければ、現在の医療水準を維持することさえ不可能です。

1.医療費を先進国並みに増額し、医療を大幅な雇用創出の場にすべきです。保険診療の診療報酬は、医療関連職の技術を含め人的資源にかかる 費用を重視して、緻密なコストの積み上げで決定することと、その過程を透明化することが大切です。

日本の医療費は、GDP比で8.1%と、先進国平均より1.0%も抑制されています。この状況では、医療の高度化に対応することも、国民の医療に対する高 い要求に応えることも困難です。長期にわたる医療費抑制政策の根底には、医療費を経済的浪費としてしか捉えていない考え方があるのではないかと 思われます。しかし、医療は、科学立国を支える、経済波及効果の高い産業であり、新たな雇用を生み出す場でもあります。国民は医療がどのような姿 になるのを望むのか、そして、その医療を実現するために、国は医療にどの程度財政投資するのかが、今問われています。
医師は、診療業務(診察・検査・治療)以外にも、患者説明、各種会議運営、各種書類・マニュアル作成など、多くの業務を抱えています。日本では、 先進諸国に比べて、他の医療関連職(看護師・薬剤師・検査技師、各種専門職、事務職)の人員も少ないため、診療業務以外の医師の仕事を、うまく 分担できずにいます。医療関連職の雇用を大幅に増やして十分に診療支援してもらうことは、医師を本来の診療業務に専念させることにもつながり、医 療安全に大きく寄与します。
また、現在問題となっている医師の過剰労働を改善するためには、各医療機関に勤務する医師数を増やす必要があり、そのためには、病院がその雇 用を行っても経営的に破綻しないような予算的措置が必要です。そして、医療の質を高めるためには、死因や医療行為によって生じた障害について、 医学的・科学的に正当な判断ができる調査機関の設立が望まれます。そのためには、医療現場で働く医師や、病理学・法医学の専門医の協力が必要 で、そうした専門家を養成する予算も必要です。
保険診療の診療報酬では、設備や物品だけでなく、医療技術に対する報酬や、医療を支える労働への対価を充実させるべきです。 医療の高度化は 、診断技術や治療選択、手術手技の進歩によって支えられていますが、現在の診療報酬体系では、これらの技術料が低く設定されています。また、医 療の質を保つためには、多くの医療関連職の協力が欠かせません。しかし、現在の診療報酬は、こうした人件費を支えられるものにはなっていません。
また、保険診療において、現在の診療報酬決定過程には、不透明な部分が少なくありません。診療報酬の決定は、巨額な予算を左右するものですか ら、専門的な論議を重ねて決定し、その決定過程を検証可能なものとするために、透明化することが求められています。現在の診療報酬決定には、内 容の妥当性と論議過程の透明性に疑問が残ります。

2.医療の需要は、現場の対応能力の限界をはるかに超えています。現場の医師がこれ以上疲弊しないために、国はこの問題を直視し、急性期医療 機関への受診を適正化するなど、医療の需要を制限する緊急避難的な施策を真剣に検討するべきです。

医療が高度化し、高齢者が増加するに伴い、患者一人当たりの診療における医師の労働量は、加速度的に増加しています。それにもかかわらず、病 床当たりの医師数は非常に少ないまま放置されてきました。医師、特に勤務医の過剰労働は、すでに個々の志で維持できるレベルではなく、勤務条 件の劣悪な職場からは相次いで医師が退職しています。
もし、医療費が増額されたとしても、医師が対応するべき仕事量が今のまま無制限に増大しつづければ、医師の労働環境は改善されることはありませ ん。医師の仕事は公共的な性質が強いことから、その仕事量を制限する施策の立案は難しかったのかもしれませんが、この問題を直視せず手がつけ られなかったことが、現在の惨状を招いていると考えられます。何らかの方法で、受診行動を抑制する施策の立案が必要です。
小児の夜間診療や救急車の利用にあたっては、教育的手法などを用いてフリーアクセスを制限し、医療現場を維持回復させるべきです。紹介状なし の高次病院受診の原則禁止などにより、一次医療機関と高次医療機関の役割分担を明確化し、不要不急の診療を減少させることが必要です。そのよ うな制限は、医療を本当に必要とする患者さんに医療資源を集中させるために必要な施策です。その重要性を、地域住民に理解してもらうことが求め られます。
医療費の自己負担無料化は、受診者の経済的負担を無くすため、良い施策のように思われがちですが、医療供給側に制約のある現状では、医療供 給側を消耗させ、医療システムを破綻させてしまいます。つまり持続可能な医療政策とは言えません。医療機関に対するアクセスを今以上に良好にす る施策を立案する場合、地域の医療現場にその対応する余力があるのか、直接意見を求めてほしいと強く希望します。

3.医療従事者が過剰労働で医療を支えている現状では、医療の安全は守られません。国と医療機関の開設者は、病床あたりの勤務医師数を大幅に 増員するよう努力し、労働環境の適法化に真剣に取り組む必要があります。

日本産婦人科学会や日本外科学会の調査で明らかにされたように、病院勤務医の多くが当直明けにも通常勤務を余儀なくされ、過労死認定基準を 超える長時間勤務を行っています。労働基準法が遵守されることなく、時間外労働が宿直扱いとされて黙認され、労務管理がずさんなまま放置されて いることは、医療崩壊の原因の一つだと考えられます。医師養成数の抑制を撤回する閣議決定がなされましたが、臨床現場の医師が増えるまでには 長い時間が必要です。将来まで持続可能な医療体制をつくるためには、現時点で、厳しい勤務条件下で働いている医師が急性期医療から撤退しない よう、医師の労働環境を適正化することが必要です。
一般病床勤務医師の勤務環境を労働基準法に準拠させるためには、交替制勤務を導入したり、非常勤医師を積極的に活用したりして、より多くの人 員を雇用することが必要です。また、その実現には、労働環境が整備された病院の診療報酬を優遇するなど、病院がそうした雇用を可能にするための 現実的な施策が求められます。しかし、ただ単に病床と医師を集め、新たな施設にしたところで、病床あたりの医師が薄く配置されるのであれば、問題 解決にはなりません。医師数が絶対的に不足している現状では、急性期病院の集約化にあたっては、病院あたりのみならず、病床あたりの医師数を増 員することが必要条件です。その為に、労働基準法が遵守できる医師配置基準の見直しとその裏付けとなる支払い報酬の増額を求めます。
交替制勤務を導入するためには、主治医制を廃止したり、非常勤医師を積極的に受け入れやすい環境づくりをしたりすることが求められます。休職中 の医師や女性医師の一部など、生活形態の変化に伴って職を離れた医師が新たに勤務できるよう、多様な勤務体制が可能になる施策がなされるべき です。そのためにも、勤務時間の正確な把握など、適切な労務管理を行うことがまず必要になります。ずさんな労務管理の上に交替制勤務やフレックス タイム制は成り立ちません。労働環境の正常化に関する医師の正当な要求に対して、行政、病院開設者は、真摯に対処することが求められます。

4.医師の計画配置は、過酷な労働環境が放置されたままでは不可能です。このような医療の現場に医師を強制的に配置することは、医師を消耗させ 、結果的に医師の診療能力の低下を、ひいては医療供給の減少をまねきます。

医師不足の地域に医師を強制的に配置し、医師数を充足させるという案が提起されていますが、日本の人口当たりの医師数はOECD平均より少なく、 かつ、病床当たりの医師数は更に少ないため、他院に医師を転出する余裕のある医療機関がほとんど存在しないという問題があります。
また、時間外労働や労働時間管理についての問題が放置されたままでは、根本的な解決にはなりません。医師の強制配置を、労働問題の改善よりも 優先させるという手法は、問題の先送りにしかなりません。過酷な労働環境に配置された医師の勤労意欲は損なわれ、結果的に地域医療の診療能力 の低下をもたらします。医療現場の医師が継続的に勤務を続けられる体制でなくては、休職や辞職が相次ぐことになり、医師不足問題は解決できませ ん。
地方においても魅力的な病院であれば、医師、研修医は集まっています。労働環境の整備の他に、医師個人のインセンティブ(処遇条件やキャリアパ ス上の位置づけ)を重視した施策を用いた場合、医師の配置が有効に機能している例があり、参考にすべきです。

5.医療の場で不幸な事態が起こったとき、捜査機関の介入に先立ち、刑事手続に付すことの相当性を検討する調査委員会の設置が必要です。また 、医療事故補償基金を創設し、患者(家族)救済を図る必要があります。

我が国では、医療の不確実性に関する周知が十分ではありませんでした。医療行為は安全を保証するものではないこと、どんなに努力しても救命でき ない場合が存在すること、そして人間は最終的には死を迎えることが、いつからか忘れられるようになりました。その結果、安全要求は医療機関が提供 可能な能力を超え、医療事故に対する訴訟圧力の増加に繋がったと思われます。
一方で、医療関連死や、医療行為に付随した健康被害に関する原因解明は不十分であり、医療の安全性向上のためには、実地医療に即した医学的 ・科学的な検証が求められています。医療事故に於いて、個々人の責任追及と処罰が先行し、システム全体の問題解決がなおざりにされているという 現実があります。専門家からみて、過誤がないと判断しうる医療関連死であっても、刑事手続きが取られ、担当医個人が業務上過失致死罪で起訴され る事例が相次ぎました。その結果、萎縮医療が拡大し、医療崩壊を招く重要な原因となりました。
医学的・科学的な分析が不十分なまま、医療行為を刑事手続きに乗せることは、社会的損失が明らかに大きい行為です。今の状況を放置すれば、医 療現場から多くの指導医が立ち去り、医療再生は困難となるでしょう。
まず、社会に対して、医療の不確実性を啓発することが必要です。そして、医療事故においては、捜査機関の介入に先立って、刑事手続に付すことの 相当性を検討する調査を、医療の専門家の手によって行うことが必要です。その場合、重要なのは、刑事手続きの中で、調査機関の専門的判断の効 力が法的に担保されること、具体的には調査機関の判断が起訴要件となることであると考えます。また、医事紛争の解決手段としての民事訴訟には費 用も時間もかかり、当事者双方にとって負担が大きくなっています。前記の専門機関による事故調査の結果を活用すれば、当事者間に事件に対する 共通認識が生まれ、訴訟によらずとも、示談交渉などの和解的手段により早期に解決に至ることが期待できます。
現在、民事紛争処理では、医療者の過失を証明できない場合、なんら補償が受けられず、患者側に負担を強いることになっています。全国医師連盟 は、患者救済を目的とした、医療者の過失を要件としない、調査委員会の報告に基づく医療事故補償基金を創設することを提起しています。


平成二十一年八月六日 全国医師連盟



参考文献

「救急医療の今後のあり方に関する検討会」中間とりまとめについて

医師に関する新聞報道
外科 Vol 68 No.13 p1731-1734

産婦人科勤務医・在院時間調査 第1回中間集計結果 報告と解説

結果報告:日本外科学会女性外科医支援委員会によるアンケート

「財政制度等審議会」が与謝野馨財務大臣に建議した「平成22年度予算編成の基本的考え方について」に対する全国医師連盟の見解

「総合周産期センター等の医療機関における労働環境」 についての見解

中央社会保険医療協議会(中医協)公益委員再任の不同意に関しての見解

二階経済産業大臣の発言に対し抗議しました

医療の安全確保と診療の継続に向けた医療関連死および健康被害の原因究明・再発防止等に関する試案