全医連ステートメントとして発表いたします。
新政権への医療現場からの要望
2009年 9月 16日、民主党を軸とする新政権が発足することになりました。全国医師連盟執行部は、新政権が、正確な情報の収集、徹底した情報公開による透明性が確保された議論を基に、持続可能な医療政策を実行されることを要望します。
これまでには、不確かな情報の下に政策が決定される事例が数多くみられました。例えば、誤った医師需給予測のもとに医学部定員が削減され、医師不足が顕著になりました。また、労働基準法は診療業務にも適用されなければならないという認識が行政側に不足しており、医師の過重労働という違法状態が放置されてきました。医療事故においては、医療従事者個人の責任追及に終始し、システムエラーへの対策が放置され、医療の現場はますます萎縮する結果となりました。
医療崩壊をくい止めるためには、医療従事者の増員、医療資源を支える財源の確保、そして正当な医療行為に対する刑事手続きに一定の歯止めをかける制度が必要です。私たちは、新政権がこの医療崩壊の要因となる問題を解決されることを切望します。それとともに、日本の医療が持つ国際的革新性、雇用創出能力、経済波及効果などの可能性を正しく読み取り、政策の中に位置づけられることを望みます。
民主党のマニフェストでは、医療現場での労働基準法の遵守の徹底が謳われています。これは、医療安全、労働安全の両面で重要かつ不可欠な条件です。全国医師連盟はこの政策を支持します。しかし、現在の少ない医療従事者数では、急性期病院の病床数を維持することと労働基準法の遵守とを両立させることは出来ません。労働基準法を遵守するためには、病床あたりの医師数を増やすことが必要です。従って、急性期病院の病床数を大幅に削減することは避けられません。短期的には、医療提供体制の大胆な再構築による医療機関の集約化が必要です。長期的には、適正な人的資源を確保するための人材育成へ力を注ぐ政策が必要になります。
また、今後、医療を立て直すにあたっては、急性期医療のみに目を向けるのではなく、慢性期の医療や介護とのバランスを考えながら、医療資源の配分を考えることが必要になります。
喫緊の課題は新型インフルエンザ対策です。これには国の政策的判断が重要です。現時点で何がわかっていて何がわかっていないのか、正確でわかりやすい情報を迅速に提供することと、対策のメリット、リスク、補償と免責に関する専門的議論とそれを周知することが大切です。感染対策体制の充実は国家安全保障上も重要です。その決定過程の検証が可能となる情報の保存と、適切で充実した情報提供、広報活動の継続を期待します。
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月から始まる「出産育児一時金の医療機関への直接支払制度」は、少子化対策という本来の主旨からはずれつつあります。前政権下で策定された本制度は、現場の産科医療機関の犠牲の上に成り立つもので、このままの形での実施は、黒字倒産する医療機関の発生など、産科の医療崩壊を進め、少子化対策の理念と逆行してしまいます。独立行政法人福祉医療機構からの融資を、政府の補助により無利子とし、無担保融資限度額の大幅な引き上げを行うか、あるいは、当該局長通達を取り消し、本制度を取り扱う産科医療機関を救済することを新政権に強く求めます。
厚生労働省の局長通知、課長通達は、法令にならぶ強制力(立法類似行為)を持つに至っていますが、その一部には、このような現場を配慮しない無責任なものがあり、医療界に混乱を引き起こしています。恣意的運用の余地が少ない法令の策定を心がけ、通知、通達には発出者を記名するなど、責任の所在の明確化が必要と考えます。
政権を担当する民主党をはじめ、各党の多くの国会議員から医療現場の声を重視することが表明されています。全国医師連盟はこれらの声を歓迎しています。新政権が、充実し、かつ持続可能な医療制度の構築を進めることを願います。
平成二十一年九月十四日 全国医師連盟執行部