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第三回地域医療を守る地方議員連盟

第三回地域医療を守る地方議員連盟研修会の報告

全国医師連盟 執行部 遠山義浩


第三回地域医療を守る地方議員連盟 研修会

地域医療講演会〜安全で安心して暮らせるため〜

=内容=

13:00〜14:30
演題「地域医療崩壊の危機」
講師 医療法人財団 夕張希望の杜 理事長 村上 智彦 先生
経歴(略)

14:45〜15:45
演題「僕は何故,北海道の地域医療に取り組むのか」」
講師 医療法人財団 夕張希望の杜 理事 
   介護老人保健施設夕張 施設長 永森 克志 先生
経歴(略)

15:50〜16:30
事例発表 「上富良野町立病院の取り組み」


日時:平成20年10月18日(土) 13:00〜
会場:北海道空知郡上富良野町大町2丁目8−4
   上富良野町保健福祉総合センター「かみん」0167-45-6987

 午前の病棟診療を大急ぎで終わらせ,小樽から上富良野まで車を走らせて約15分の遅刻で会場に入ることができた。ちょうど,地域医療を守る地方議員連盟代表の金子益三 前上富良野町会議員(11月25日告示11月30日投票で行われる予定の上富良野町長選出馬に伴い10月3日に議員を辞職)が挨拶をはじめたところであった。

兵庫県立柏原病院の小児科を守る会と千葉県東金市のNPO法人地域医療を育てる会のコラボレーション作品である
【絵本】〜くませんせいのSOS〜が紹介された。
 また,村上医師の話を聞くために,私の後輩でもある旭川東高校から医師をめざしている高校生4人が参加していること,プログラムの2番目の演題に夕張希望の杜の田谷智医師の発表が付け加えられる旨が告げられた。
講師の夕張からの三人の医師の代わりに夕張の留守番として,「地域医療を守る地方議員連盟」の発案者でもある兼古稔上富良野町立病院外科医長(副院長)が夕張で働いていることの報告もあった。

 引き続いて,司会進行の広瀬寛人富良野市議会議員の紹介で田浦孝道上富良野副町長が挨拶をした。大雪山そして「ラベンダーのふる里」である上富良野町の紹介をそこそこに,現在の医師看護師不足,医師の過重労働,病院経営の難しさについて地域住民の理解が必要である旨の内容であった。

 次に「新党大地」の鈴木宗男代表からの祝電が披露された。衆議院議員選挙も間近という影響もあるのだろうが,「政治の流れを北海道から変えましょう!」という内容であった。「新党大地」所属の小樽商科大学の現役大学院学生でもある成田祐樹小樽市議会議員もこの「地域医療を守る地方議員連盟」に参加している。小樽市議会での成田議員の市立病院問題に関する質問は目を見張るものである(医療に関係する「新党大地」のマニュフェストは彼が作成するとのことである)。会派代表質問市議会初の“ナイター議会”開催!傍聴者は37名 (2008/06/18)病院問題が大きな転換期に!予算特別委で論議 (2008/03/11)新市立病院問題を質疑!市議会 代表質問2日目 (2007/12/11)

 講演は,村上医師の演題「地域医療崩壊の危機」から始まった。まずは,夕張(町の負債630億円,市立病院負債40億円)の自例から「どうして夕張が壊れたのか?どうして医者が来なかったのか?」という疑問に対しての答えとして,旧態組織としての医局講座制体制下の医師派遣に頼っていた北海道には,村上医師が以前働いていた岩手県藤沢町民病院のような地域医療の先進的モデルとなり得る医療機関および地域がなかったことをあげた。村上医師が旧瀬棚町行っていた肺炎球ワクチンの公費助成などの予防医療への自治体の不理解や病院も含めた箱物行政を痛烈な批判した。また,住民になりたい魅力ややりがいがなければ医師は来ないと主張した。住民の不安解消のための救急医療こそが医療崩壊の原因であり,社会保障として医療を守るためには,わがままな住民意識の排除することが必要であり,1年間の夕張の実績(救急車出動数の低下,死亡数の低下,重症数の低下,国保2億8000億円の減少)は,肺炎球ワクチンや食生活などの予防医学を通して健康づくりを行なってきた結果で「住民意識の改革」こそが限られた医療機関の崩壊を防ぐ手立てである旨の意見を述べた。

 永森克志医師の講演のタイトルは予定では「僕は何故,北海道の地域医療に取り組むのか」であったが,スライドは「長野と北海道」となっていた。長寿(男性1位,女性3位)でいつまでも元気なお年寄りの多い(男性2位,女性4位)長野県が入院(47位)も外来受診(43位)も少なく一人当たり医療費も安い(47位)。医療費の高い北海道で長野県の取り組みの必要性を強調した。歴史的背景として「リーダーと予防」があったとのこと,長野県住民は元々短命(脳卒中全国2位,心臓,悪性腫瘍全国4位)であった。しかし,若月 俊一医師が「予防は治療に勝る」との考えのもと八千穂村で現在の健診のモデルとなった全村一斉健診を行い集団健康診断を通して長野県の医療革命を起こした。健康長野の合言葉として死に至るまでの生活の質を示す「死ぬまで元気PPK(ぴんぴんころり)」,また若月 俊一医師が提唱した保健,医療,福祉を軸とした町づくりであるメディコ・ポリス構想(医療福祉複合体)の一例として,医療機関が脇役でヘルパー,介護,リハビリといった福祉施設中心の町づくりの一例として長野県南佐久郡小海町を紹介し,地域での生き方そして死に方にとっての福祉の重要性を述べた。最後に,将来的には医師一人の小規模診療所)と集合住宅,グループホーム,商店といったものが包括されたコンパートメントとしての在宅連携イメージを提唱して講演を終えた。

 続いて田谷智医師の「なぜ,夕張に?そして,この1年余りを振り返って」というタイトルで講演をおこなった。神戸出身で大学は和歌山,卒業後は和歌山,大阪南部の勤務経験をもつ田谷智医師は,初期研修を終えた後,後期研修は地域医療,家庭医,総合医を希望しており,村上智彦医師の動向をwatchしていた。夕張希望の杜のホームページで医師招聘を知りエージェントを通して応募した。「医師は地域に興味はないのか?」の問いには,彼の周りには地域で働きたい医師はいる。そして,総合医,家庭医志向の医師は増えつつあり,実際,夕張の見学実習者は増えている。しかし,その皆がいわゆる"赤ひげ"的存在をめざしているわけではなく,逆に地域での"赤ひげ"を求められることが負担になることが多いとのである。従来の医局人事頼みの医師供給システムではなく,村上医師の提唱する地域志向の医師が循環的に供給される研修システムに共感し,その地域で住みたいそして働きたいという魅力があれば必ずや医師はやってくるであろうと強調した。医療崩壊を防ぐためには,医師招聘以前の問題として地域が医療に対する過度な期待を改める必要がある。いくら医療を充実させたとしても安心が担保されるわけではないことの説明責任は行政にあり,住民一人一人に健康を守るという意識を持たせ,それをサポートし,見合う人員の確保,予算の拡充,地域医療福祉従事者の労働環境を整備することが行政の責任であるとした。

 3人の医師の講演の後,地域住民からの質問を受けるキャッチボールのコーナーが行われた
 まずは、上富良野住民からの質問、「本当に地域医療を希望する医師は多いのか?大学病院では医師不足のため地域への医師の派遣を制限している。また、地域医療を目指す医師より留学や技術習得を優先する医師が多いのではないか?」永森医師の答え「地域医療を目指している医師が今の大学病院では異端者のように見られる現状はあるものの、徐々に認知されつつあり、家庭医の研修のために留学する医師も出てきている。しかし、地域医療を希望した医師が実際に働いてみると地域に幻滅し専門医として都会での生活にもどってしまうこともある。」2つ目の質問として、大学出張医とはどうしてもコミュニケーション不足になり良好な患者医師の良好な関係が保てないという問題をあげた。村上医師は「若い医師の多くは赤ひげ医療にアレルギーを持っている。医師が来るだけでもありがたいと思って住民の方から積極的にコミュニケーションをとる努力が必要である。」と答えた。
 患者としてドクターヘリに乗った経験のある住民から村上医師の住民が健康に対する意識改革をすべきという考えに賛同のコメントがあり、それを受けて村上医師から「自分は、健康(生活習慣病や予防医療)に真剣に取り組んでがんばっている患者さんには甘く、健康を省みない患者さんにはきつく接している。医師も真剣に取り組んでいるのだから患者さんにも真剣に取り組んでほしい。」と発言、永森医師は「1年前は村上医師が怒鳴りっぱなしであったが、1年後には患者さんと和気藹々に接している。」と付け加えた。
 続いて村上上富良野町議会議員から,上富良野町立病院における富良野協会病院との病々連携(泌尿器科、循環器、眼科外来)、バリアフリーの改築、経営改善についての報告があった。村上医師は,上富良野町の肺炎球菌ワクチン助成,上富良野町町議会議員の医療に対する関心の高さを褒め、さらに来る町長選挙では住民には医療に理解のある首長の選択を期待する旨の発言した。
 次に旭川東高校生から,今後医師増員が行われる予定であるが医師を増産することによる"質"の低下を危惧する質問があった。村上医師は「医療の質とは何?高度医療が質が上と勘違いしているのではないか?我々は"いい医療"を目指している。医療は目的ではなく手段と考えるべきた。」と,永森医師は「医療の質に対しての考え方の違いがあるであろう,急性期医療の進歩も必要であるが,我々は慢性期医療,予防医療にその価値を見つけている。」と,そして田谷医師は,「病気の多くはCommon diseaseであり生活習慣の改善させるためには,より多くの医師が必要とされる。また,医師数が増えて質が悪くなるか?の問いには医師が医師に対して評価し合う事で切磋琢磨する傾向になることがその解決策になるのではないか」と,それぞれ答えた。
 地域医療に携わることを目指している旭川東高の女子高生のコメントの後,村上医師は地域医療での医師の役割は大きくないことを医師も住民も自覚することが大切で,いわゆるモンスターペイシェントを生み出した医師の責任についても説明した。永森医師は女子高生へ,"赤ひげ"になりたいのならアドバイスはできないが,地域医療に興味をもつ医師が気軽に働くことのできるシステムの必要性を述べた。田谷医師は,大学病院勤務時の"患者さま"という言葉また従来の医師が上から見下ろすパターナリズムに違和感を持っており,医師と患者の対等性が重要である旨の発言をした。
 次に今井比布町議会議員から,人口4310人(65歳以上35%)の旭川市に隣接する比布町の紹介(遊湯ぴっぷとスキー場),町財政において国民保険料に占める割合が大きく現在住民への予防医療の取り組みに努力している旨の報告と公設民営の診療所における人工透析治療について村上医師に質問をした。村上医師は,透析医療は50人の患者さんがいないと採算が合わない点,一人当たり600万円/年の医療費について答えた。また伊関氏も言っているように,地域での医療は,「あれもこれも」というすべてを満たすのではなく,「あれとこれ」といったある程度限定した医療をしていかないと維持は難しいと主張した。

 講演会の最後に山川護上富良野町立病院事務次長から上富良野町立病院の取り組み」の発表が行われた。週間金曜日(2008.8.1,p28-29)「自治体病院の再生奮闘記」北海道・上富良野町立病院の試み(平田剛士)の記事 にも取り上げられたよう兼古稔医師との二人三脚で取り組んできた病院改革の過程と今後の取り組み(平成20年12月に医療療養病床16床を廃止して,今までの一般病床44床と介護療養型老人健康施設28床の病棟編成),上富良野町財政における病院事業の詳細な会計報告を行った。最後に「いま,公立病院にもとめられているもの」として患者,住民,議会に,病院を理解してもらうための情報発信の必要性をあげた。また,自治体病院には「病院の経営に携われる職員」が求められており,「地域医療を守るために自治体職員が何をしてきたか?何をすべきか?」を考えなければならないと主張した。

 講演会終了後,金子益三代表から自身の11月25日告示11月30日投票で行われる予定の上富良野町長選出馬の報告とそれに伴う地域医療選出された。

 研修会は場所を吹上温泉白金荘に移して交流会が開かれた。吹上温泉はテレビドラマ「北の国から」で宮沢りえが入浴したことで一躍有名になった。上富良野町から道道白金線で30キロ程度の場所である。交流会前に温泉に入ったが温度差の違う4種類の露天風呂は最高であった(私は旭川育ちであるが,吹上江温泉は初体験)。交流会では上富良野名物の「豚しゃぶ」をポン酢とゴマダレをミックス(この食べ方がおいしいとのこ)して食しながら,会員を中心として地域医療を熱く語り合われた。22:00ごろワインの差し入れをもって夕張から戻ってきた兼古稔医師を見届けたあと,私は乾杯の挨拶をしてその場を後にしたが,夜明けまで会は続いたとのことである。地域医療を守る地方議員連盟研修会のような催しが全国各地でおこなられることが,地域医療の崩壊をくい止めることと信じて報告を終える。

 ちなみに,成田祐樹小樽市議会議員のブログによると,次回の地域医療を守る地方議員連盟の会は、小樽で開催する事になるようである。いままでの夕張や上富良野の研修会と同様に市民も参加できる公開講座で来年1月か2月中旬の開催を予定しているとのことである。私も,最大限の協力をしたいと考えており,皆様のご参加を希望する。